歯周病と全身疾患の関係

歯周病と全身疾患の関係

歯周病は、体質や生活習慣などによって歯周病が悪化するという側面と、歯周病が悪化することで、病気を引き起こしたり、病気を悪化させたりする側面があります。つまり、歯周病と全身の健康は、双方向の関係性があるといえます。

歯周病になって起きてくることがあるリスク

① 歯周病は炎症性疾患であるため、体内の炎症性物質が増加することで引き起こされる問題。
② 歯周病菌そのものが血管から入り込み、全身を駆け巡ることで引き起こされる問題。
③ 歯周病菌を間違って吸い込み(誤嚥)、してしまうことで引き起こされる問題。
④ 歯を失うことほ発端として、引き起こされる問題。
⑤ その他


炎症性物質由来とされる病気や問題

歯周病によって、歯周組織には炎症が起こります。炎症が起きることで「サイトカイン」と呼ばれる物質=炎症性物質が発生します。そしてこの炎症性物質が血液中に入り全身を駆け巡ることで、病気や問題の悪化につかがるといわれています。

ちなみに、中等度の歯周病になっている人の歯周組織に起きている炎症の総面積は「手のひらサイズ」といわれています。

もしも体のどこかにこんな大きな炎症が起きていたらすぐに病院に行くはずです。とても放置できる状態ではありません。しかし歯周病な場合には放置してしまうのです。ただ、体には見えない異変が起きていくのです。

糖尿病

歯周病によって発生する炎症視物質(サイトカイン)は、血液中に入り全身を駆け巡ります。サイトカインという物質は筋肉や脂肪において、血液からブドウ糖を取り込むことを抑える働きを持っています。このことが、ブドウ糖を取り込む働きをしているインスリンの作用を弱めます。つまり血液中のブドウ糖が筋肉や脂肪にいかず、血中の濃度が高いままになることを意味します。糖尿病のある方の場合、歯周病によって血糖値が上昇することにつながってしまうのです。実際、歯周病と糖尿病と両方ある方に対して、歯周病の治療を行うと、炎症性物質(サイトカイン)を減らすことになり、血糖値を低下させることができることがあります。

早産・低体重児出産

妊婦の体内で、血中の炎症性物質(サイトカイン)の濃度が高まることが、「出産のゴーサイン」とみなされ、早産・低体重児出産につながることがわかってきています。

アメリカのノースカロライナ大学で、スティーブン・オッフェンバッハ教授が、妊娠中の女性のうち、歯周病の人は、歯周病でない人に比べ、早産・低体重児出産をする確率が高いということを報告しています。

炎症性物質(サイトカイン)は羊膜に穴を開ける作用をもっており、そのことにより破水して早産になります。早産の発生率としては、通常12%に対し、歯周病の人では43%と非常に高い率となっています。また、血液中に入った歯周病菌が直接胎児に何らかの影響を与える可能性も示唆されています。


歯周病菌由来とされる病気や問題

歯周病菌は非常に厄介な細菌で、バイオフィルムを作り、ブラッシングなどの機械的な除去を行わなければなりません。この歯周病菌が炎症の起きている歯周組織の血管から入り込み、全身を駆け巡ることで、様々な全身疾患と密接なつながりを持っていることがわかってきています。

脳疾患

歯周病と脳疾患の関係がわかってきています。カナダのトロント大学で、ブライアン・チュウ博士が発表した論文によると、脳梗塞で入院した人の40%から、頚動脈の血液中から歯周病菌が検出されたと報告されていました。そして、これらの方々は、重い歯周病になっていたのです。また、その後の研究で、歯周病菌が血液中に侵入し、全身を駆け巡ることで、動脈硬化や血栓を形成することがわかっています。

心臓疾患

これまで動脈硬化は、食生活、運動不足、過度なストレスなど、いわゆる「生活習慣」が原因であるといわれてきましたが、歯周病菌についても注目されるようになってきました。歯周病菌が心臓の血管をつまらせて、心臓の血管の細胞を障害するということがアメリカの研究で明らかになっています。実際に、動脈硬化や大動脈瘤にかかった血管の細胞を検査すると、歯周病菌(Pg菌など)が検出されたのです。

バージャー病

バージャー病は、末端の血管が詰まって皮膚に炎症や潰瘍を引き起こす病気です。このバージャー病にかかった人が、全員歯周病であると診断されました。病変がある部分の血液を検査したところ、血液からは歯周病菌が検出れました(病変の無い部分からは歯周病菌は検出されなかった)。

歯周病菌の誤嚥由来で引き起こされる病気や問題

現在、日本の死亡原因の 3 位は肺炎です。肺炎で亡くなる方の多くは 75 歳以上の高齢者です。この死亡原因3位の肺炎の中で、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)と歯周病の関係が注目されています。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

誤嚥性肺炎は、誤って気管に入った唾液の中の細菌が肺に感染して起こる病気です。口腔ケアが行き届いていない場合には、誤嚥性肺炎を引き起こす原因となりやすくなるため、高齢者においては注意が必要です。

歯を失うことで引き起こされる病気や問題

愛知県の特定の地域で65歳以上の住民を対象に数年間に及ぶ調査・研究が行われました。その結果、歯が多く残っている人や、歯が少なくても入れ歯等をしている人は、歯が少ない人や、入れ歯も入れていない人と比較して、認知症、転倒、要介護のリスクが低いということがわかりました。

認知症

歯を失って入れ歯を使用していない場合、歯が20本以上残っている人や、歯がほとんどなくても入れ歯を使っている人と比較して、認知症のリスクが2倍近くになるということがわかっています。

転倒

残存歯が19本以下で入れ歯を使用していない人は、20本以上残っている人と比較し、転倒するリスクが2.5倍になることがわかっています。

要介護になるリスク

残存歯が19本以下の人は、20本以上の人と比較して要介護認定を1.2倍受けやすいということがわかっています。